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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)165号 判決 1964年3月10日

上告人

片倉チツカリン株式会社

右代表者代表取締役

鷺見保佑

右訴訟代理人弁護士

菅野次郎

被上告人

大阪港運事業信用保証株式会社

右代表者代表取締役

田伏修

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人菅野次郎の上告理由一ないし三について。

原判決が確定した事実によると、上告会社高知出張所は、同市の片倉工業株式会社の建物の一部を借り受けてそこに設置され、上告会社西宮支店管下の一出張所であること、西宮支店は、北は福井県から南は四国を含めて広島県まで計一八県における肥料の仕入、販売、金融その他これに付随する一切の業務を取り扱つているところ、右高知出張所は、相場の著しい変動あるものの仕入はとくに右支店の許可を要したが、それ以外は右許可を要せず仕入行為をすることもあつて、肥料を高知県下に販売し、その代金の回収と右販売に伴う運送等を行つていたもので、同出張所における昭和三二年頃の年間肥料販売額は四千万円にも達していたこと、本件手形振出当時も、職員として出張所長の下に男女合せて三名が勤務し、右職員の給料を除くその他の出張所の日常経費はその取立金で賄い、不足を生じたときは右支店から送付されることになつており、右出張所の金銭出納のために四国銀行旭町支店に普通預金口座が設けられていたことがいずれも認められるから、高知出張所は、単に機械的に取引を行うにすぎない出先機関たる売店、派出所ないし出張所とは類を異にし、前記販売業務の範囲内では、本店から離れて独自の営業活動を決定し、対外的にも取引をなしうる地位にあつたと認められるというのであるからこのような場合には、右高知出張所は、上告会社の支店と解して妨げなく、右出張所長の名称を付せられていた五十川正信は商法四二条にいう表見支配人に該当するとした原判決は首肯しうる。したがつて、原判決が「かりに右出張所が商法上厳密な意味における支店と解せられないとしても」以下に説示するところは、無用の論議を付加したものにすぎないから、右説示を非難する論旨は、判決に影響を及ぼすべき法令違反の主張にあたらないことに帰着する。その他の論旨も、独自の法律的見解を述べて原判決を論難するにすぎない(商法上支店たる営業所であるか否かは、その実体によつて決すべきであつて、その場所に名づけられた名称や登記ずみの有無等によるべきものではない。)論旨は、いずれも採用できない。

同四について。

上告会社は、原審において、所論被上告人の悪意についてはなんら主張していないのみならず、原判決挙示の証拠関係から、被上告人の善意を認定した原判決は肯認できる。論旨は、事実審の裁量に属する証拠の取捨判断および事実認定を非難するにすぎないから、採用するを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五号、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官横田正俊 裁判官石坂修一 五鬼上堅磐 柏原語六 田中二郎)

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